● むち打ち損傷(Whiplash Injury)  

【原因】

 交通事故などで、首の部分が空中で空振りしたムチの動きのような、激しい振れ方をすることに例えて言う首の損傷のことです。
 停車中の車に乗っていて、後ろから追突された場合は、体はシートによって支えられたまま前方に行き、頭は、そのままの位置に残ろうとするので、頚部が急激に後屈し、次に、この反動で重い頭が、振子のようになって前屈し、顎が胸骨にあたって止まります。
 この状態が前ぶれなくおこるので、頚部の筋肉が弛緩状態のままで、防御反応が間に合いません。
 追突した側の車に乗っていた場合は、逆の変化がおこります。まず、頚部は前屈し、顎が胸骨にあたり、次に反動で強く後屈します。
 側方から自動車が追突した場合は、まず頚部が側方に屈曲し、次に反動で逆側に屈曲します。したがって、衝突の状態や程度によって、鞭打ち損傷の程度も様々です。
 最悪の場合は、頚髄を損傷し、特に上位を損傷すると即死します。
 その他、頚椎の骨折、脱臼、捻挫、椎間板の損傷、頚部の筋肉・靭帯の損傷、血行障害、神経の損傷などをおこすこともあります。また、まったく症状がでないですむこともあります。

【症状】

 損傷した直後から、症状が出るものと、数時間異常経過してから出るものがあります。
 主に、首の痛み、肩や首の痛み、頭痛の他、首や肩が動かしにくい、腕の痛みやしびれ、めまい、難聴などです。損傷の型を次の4つに分類できます。

1.頚椎捻挫型

 鞭打ち損傷の多くはこの型です。頚椎の関節が捻挫をおこして、周辺の筋肉、関節包、靭帯を傷つけ、首や肩が痛んで動かしにくくなります。

2.神経根損傷型

 首が前に強く屈曲した時は、神経根は前上方にひっぱられ、首が後方に強く倒れると、椎間孔の大きさが最小になり、神経根は圧迫されて刺激を受けます。
 また、神経根の周囲が腫れると、やはり、神経は刺激を受けます。特に、後頭部や顔面が痛んだり、腕に知覚異常がおこることもあります。

3.脊髄症状型

 脊髄に損傷を受けると、脚部のしびれ感、歩きにくい、便や尿が出にくいと言ったことがあります。

4.バレ・リーウ型(頚部交感神経刺激症状型)

 交感神経に損傷を受けると、症状は複雑になります。頭痛、めまい、耳鳴り、顔の痛み、喉のつまり感、視力障害、食べ物が飲み込みにくい等、いろいろな症状があらわれ、損傷の直後には、意識障害をおこすこともあります。
 症状が長く続くと、不安感から精神的な要素も加わって、ますます複雑になり、治りにくくなります。

【診断】

 損傷した時の状態を含む問診、視診、触診、X線検査などを行います。しかし、X線検査で異常のあるケースは少なく、本人の訴えによって診断すると、重症であるかどうかの判断は難しい場合も多いようです。

【治療】

 一般的には、筋肉や靭帯が強く引き伸ばされたことに対して、反射的に筋肉が、強く収縮して疲労する結果、後になってから筋肉の痛みが生じます。疲労した筋肉を回復させるには、早くからの十分な安静が必要です。 損傷した直後から、たとえ症状が無くても安静にし、頚部を固定し、必要があれば、冷湿布をしたり、消炎鎮痛薬の投与を受けます。
 十分に静養すればおよそ3ヶ月以内に治ると言われます。長期に痛みが続く時には、局所麻酔や、副腎皮質ホルモンの注射もおこなわれることがあります。
 自律神経症状の強い場合、星状神経節ブロックや頚部硬膜外ブロックなどが、効果的なこともあります。また、精神安定薬、血管拡張薬、自律神経調整薬、筋弛緩薬なども用いられます。損傷した直後から、強い症状がある場合は、入院が必要な場合もあります。

【心得】

 外から見てもケガの様子が見えず、本人の苦痛の状態が周囲の人にはわかりません。2〜3ヶ月の内に症状が無くなる場合が多いので、不安を抱かないようにし、症状を長引かせないためにも、疲労を避けながら積極的な生活態度が必要です。


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