● 脊髄損傷(Spinal Cord Injury)

【原因】

 高い所から落ちたり、自動車事故などでおきる脊椎の損傷に伴っておきることが多いのですが、脊椎の損傷がみられない場合もあります。
 外傷に伴って脊髄に力が加わると、脊髄の挫傷礁、断裂、血行障害などにより、脊髄の機能が傷害されることです。
 第五〜第七頚髄や胸髄と腰髄のさかいめ辺りの損傷がよくみられますが、脊髄のどの部分にもおこります。
 損傷部位に応じて、麻痺や障害の程度が異なります。
 第1〜第4頚髄を損傷すると、呼吸の麻痺を起こし、致命的な状態になります。
 頚髄損傷では首より下の全身麻痺。胸髄・腰髄・仙髄の損傷では対麻痺。また一般に、どの脊髄損傷でも膀胱や直腸の障害がみられます。

【症状】

 頚髄損傷の場合、頚髄の上部ほど、呼吸障害がおこりやすく、痰を排出できなくなり、肺炎などの肺合併症をおこします。
 胸髄損傷では、肋骨を骨折していることが多く、血胸、気胸 となって、呼吸困難に陥る危険性も高くなります。
 損傷した直後より膀胱と直腸に障害をおこして、尿意が無くなり、尿が出なくなったり、失禁したりします。
 また、損傷部位に対応して、運動麻痺が起こります。頚髄では、手足・動体の四肢麻痺。胸髄・腰髄・仙髄では、動体と脚部の対麻痺があらわれます。
 脊髄が完全に切断されると、切断された位置に対応して、温覚、痛覚、触覚、振動覚、運動覚などの感覚が失われてしまいます。

【診断】

 神経について調べ、深部反射、表面反射、筋力の検査などの神経症状によって、脊髄損傷の位置を予想し、X線撮影により脊椎の骨折部を確認します。
 また、CTスキャン、脊髄造影、必要であれば、椎間板造影や脊髄動脈造影などもおこない、損傷位置を確定します。

【治療】

 呼吸障害がある場合は、酸素吸入や気管に直接チューブを入れて、人工呼吸を行います。
 循環障害がある場合は、輸液(点滴)や輸血を行います。
 脊椎の損傷がある時は、更に、二次的な脊髄損傷をおこなさないためにも、早く脊椎の損傷部を整復固定します。
 牽引やコルセットなどによる保存的な(手術しない)固定法と、手術による固定法があります。
 手術や整復固定によって、脊髄の障害の程度が軽くなることもあります。 脊髄の損傷が無く、脊髄造影で造影剤の通過障害が無い場合は安静にし、薬物療法を行います。
 造影剤の通過障害がある場合は、その部分の圧迫の原因となっている脊椎の一部を切除して、脊髄への圧迫を取り除きます。

 実際的な患者のケア

 尿路感染の予防、褥瘡の予防、関節の拘縮(固定して動かなくなること)の予防が大切です。
 また、残された機能を高め、傷害された機能を補うために、早めにリハビリテーションを開始することが必要です。

 リハビリテーション

 急性期では褥瘡予防のために、2時間毎に体位を変え、体を拭きます。関節の拘縮予防のためには、特に麻痺部の関節に外から力を加えて動かしてやる「他動運動」を行います。
 急性期を過ぎて、損傷部分が安定したら、ベットを起こして座位にさせて、自分で動かせる筋肉を、積極的に動かして強化します。その間、体位変換、他動運動も続けます。
 排尿反射が起きるように一定の間隔を空けて導尿します。
 起立台などによる起立訓練や、自力による寝返り、車椅子の利用、車椅子からベットへの移動、トイレ、食事動作などの身の回りの動作(日常生活動作)について、できる範囲で日常生活で自立ができるような訓練を行います。
 その他、腕の筋力強化のためにマット訓練を行います。
 松葉杖による歩行訓練も行われますが、退院後は車椅子を使うケースが多いものです。
 また社会復帰前の訓練として、作業療法も行われます。自分の作業能力を知って努力することは、将来、職業を持った社会人として、生活できると言う自信につながります。

【経過と予後】

 脊髄の損傷した部位によって、体の運動機能の範囲が定まってきます。脊髄損傷患者の残された機能を再現するには、機能が残っている脊髄の下限の位置(損傷された部位のすぐ上の位置)で示すことになっています。

残存機能部位と運動機能

 第4頚髄(第5頚髄以下が損傷)

 顎による電動車椅子の利用が可能ですが、日常生活には全面的な介助が必要です。

 第5頚髄

 肩や肘を少し曲げられます。
 装具を使った食事や、電動車椅子の利用が可能ですが、やはり全面的な介助が必要です。

 第6頚髄

 肩、肘、手の関節が動かせ、日常生活での自立の可能性もあります。

 第7頚髄

 肘を自由に動かせて、指を伸ばすことができます。
車椅子を自分で使用でき、身体障害者用の自動車を運転できるので、日常生活で自立できます。

 第8頚髄・第1胸髄

 腕は自由に動きます。車椅子も問題なく使いこなせます。

 第12胸髄

 腹筋が使え、松葉杖での歩行が可能です。

 第3腰髄

 股関節や膝が動きます。装具や杖を使って歩行が可能です。

【心得】

 脊髄損傷によって麻痺がおきると、患者の殆どが生きる意欲を一時的に失ってしまいます。患者が立ち直るためには、周りの人の精神的な支えが是非とも必要です。
 また、同病者が自立して強く生きている姿を見ることによって勇気づけられ、大変有力な支えとなります。
 病院である程度の機能訓練を受けた後は、社会復帰への計画が大切です。できれば、自宅を生活しやすいように、改造することが必要です。
 障害者用の家庭設備や装具、衣服など、様々なモノも開発されているので、助言を受けたり、自分で工夫をしてみるなど、積極的な姿勢が望まれます。
 住宅改造や福祉機器の購入には、障害者向けの公的資金貸付け制度もあり、居住地の福祉事務所などに相談するとよいでしょう。


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